Pharrell Williamsによる最新のルイ・ヴィトン メンズショーは、もはや一般的なランウェイ演出の枠には収まらない。 2025年6月26日に発表された2026 Spring/Summer Menswear Showでは、パリのポンピドゥー・センター全体を、建築家Bijoy Jain(Studio Mumbai)との協働による巨大な“Snakes and Ladders”空間へと変貌させた。
会場に広がったのは、約8,858平方フィートに及ぶ1:1スケールのゲームボード。観客もモデルも、その盤上に入り込み、まるでゲームの駒のように空間を移動していく。 幾何学的なグリッド、蛍光カラーの蛇モチーフ、温かみのあるアースカラーのプラットフォームが重なり合い、従来のラグジュアリーショーとは異なる没入感を生み出していた。
今回の着想源となったのは、インドの伝統ゲーム“Snakes and Ladders”。もともとは“Moksha Patam”として知られる思想的なボードゲームであり、 梯子は人生の飛躍や成功、蛇は挫折や転落を象徴する。 Pharrellはこの構造を、創造性やキャリア、人生そのものに存在する不確実性のメタファーとして再解釈した。
特に印象的だったのは、Bijoy Jainによる素材使いだ。 ショーフロアには一般的な仮設ステージではなく、timber、local marble、colored stoneを採用。 ルイ・ヴィトンの象徴でもあるDamierパターンは、焼赭色のclay slipと石灰ホワイトのラインによって再構築され、まるでランドアートのような質感を生み出していた。
さらに、会場内に描かれた5体の巨大な蛇は、lime、gesso、raw pigmentsを用いてすべて手描きで制作された。 均一に整えられた工業的な美しさではなく、あえて筆跡やムラを残すことで、空間全体に建築的な温度感を与えている。
近年のラグジュアリーシーンでは、“完璧さ”よりも“手仕事の痕跡”そのものが価値として再評価されている。 今回のルイ・ヴィトンもまさにその流れを象徴していた。 raw material、hand-drawn texture、natural pigmentといった要素が、むしろ現代的な高級感として成立している。
また、ショーにはインド文化へのオマージュも随所に散りばめられていた。 crystal装飾を施したLouis Vuitton trunk、象やヤシの木のモチーフなどが登場し、Mumbaiから受けたインスピレーションを視覚的に表現。 Pharrell自身も以前から、「Mumbaiのエネルギーと人々の温かさに強く惹かれている」と語っている。
コレクション自体も、旅を想起させる空気感が特徴的だった。 リラックス感のあるテーラリング、gem toneのアウター、刺繍入りワークウェア、柔らかなスーツスタイルなどが並び、 ルイ・ヴィトンらしいtravel cultureを現代的にアップデートしていた。 また、新作trunkやレザーグッズには、ジュエリーのような装飾やクラフト感のある仕上げが加えられていた。
ただ、このショーの本質は服だけにはない。 今回強く感じられたのは、ファッションショーそのものが“Experiential Fashion”へと変化しているということだ。 観客は単にランウェイを見るのではなく、世界観そのものに入り込み、その空間のルールや感情を体験する存在になっている。
その意味で、“Gamification”という発想は単なる演出ではなく、“Spatial Storytelling”そのものだった。 そして、建築家がファッションショーにおいて重要な役割を持ち始めている理由もここにある。 Bijoy Jainは背景セットを作ったのではなく、このコレクションの思想や哲学を空間として可視化した。
さらに興味深いのは、現在のラグジュアリー業界全体で、“Handcrafted Luxury”への回帰が進んでいる点だ。 完璧に磨き上げられた表面ではなく、粗さや不均一さ、素材本来の表情がむしろ贅沢として機能している。 今回のルイ・ヴィトンは、その流れを非常に象徴的に示していた。
そして、このショーが優れていた最大の理由は、単純な“インド風デザイン”に留まらなかったことだろう。 彼らが取り入れたのは、表層的な装飾ではなく、 ゲーム構造、素材感、craftsmanship、色彩感覚といった文化の根底にあるシステムそのものだった。
巨大な蛇やDamier gridの奥には、 「人生において上昇と転落は常に隣り合わせである」という、非常に人間的なテーマが静かに存在していた。