ルイ・ヴィトンが本当にすごいのは、ヒット商品を作り続けることではない。 同じMonogramを、時代が変わるたびに“新しく見せてしまう”ところにある。
今ではブランドの象徴になっているLVのMonogram Canvasも、実は創業当初から存在していたわけではない。 1854年、ルイ・ヴィトンがパリのRue Neuve-des-Capucinesに最初の店舗を構えた頃、主力だったのはグレーの防水トランク用キャンバスだった。 当時のヨーロッパでは鉄道旅行が広がり始めていて、バッグよりもトランクの機能性が重視されていた時代。軽さや耐久性、防湿性こそが価値だった。
現在のMonogramを生み出したのは、創業者の息子であるGeorges Vuitton。 しかも、その着想源は意外にも家のインテリアだった。
フランス・Asnièresにある邸宅のArt Nouveau調タイル、四つ葉を思わせる装飾、花びらのようなダイヤモンド柄。 さらに当時フランスで流行していたGothic Revivalの空気感も重なり、LVイニシャルと花柄、幾何学モチーフが組み合わさった現在のMonogramへとつながっていく。 建築装飾のようでもあり、ヨーロッパ的な装飾文化を凝縮したようなデザインだった。
ただ、Georgesが作ろうとしていたのは単なるロゴではない。 亡き父の名前を、“時代に消えない形”として残すことだったのかもしれない。
その後100年以上にわたり、ルイ・ヴィトンのデザイナーたちは同じテーマに挑み続けてきた。 つまり、「Monogramをどう更新するか」だ。
Stephen Sprouseはネオングラフィティを重ね、 Takashi MurakamiはMulticolore Monogramを生み出し、 Yayoi Kusamaは水玉でMonogramを覆った。 そのたびに「LVらしくない」と言われながら、結局どれもルイ・ヴィトンとして成立してしまう。
なぜなら、本当に変わっていないのは“柄”ではなく、“輪郭”だからだ。
2013年にウィメンズ アーティスティック・ディレクターへ就任したNicolas Ghesquièreは、その感覚を非常によく理解しているデザイナーだ。 彼はブランドの歴史を壊すのではなく、トランク時代のコードを現代的なサイズ感や感覚へと再編集してきた。
その象徴がPetite Malle。 ルイ・ヴィトンの伝統的なハードトランクを、そのままミニバッグへ圧縮したような存在だ。
現在のPetite Malleにも、クラシックトランク由来のS-lockクロージャーやメタルコーナー、ボックス構造が受け継がれている。 最近のモデルではBloomcut Monogram Flowerモチーフをlaser-cut calfskinで表現し、未来的な印象を加えているが、ベースにある思想は19世紀のトランクそのものだ。
そして、ルイ・ヴィトンを語るうえで外せないのがSpeedy。
意外と知られていないが、1930年に誕生した当初の名前は「Express」だった。 高速化する都市生活や移動文化からインスピレーションを受けて生まれたバッグで、その後Audrey Hepburnのリクエストによって小型サイズが制作され、現在のSpeedy 25へとつながっていく。
今でもSpeedy Bandoulière 25は、ブランドを代表する定番モデルのひとつ。 25 × 19 × 15 cmというバランスの良いサイズ感、Monogram coated canvas、Toronハンドル、取り外し可能なストラップなど、基本設計はほとんど変わっていない。
ただし、ルイ・ヴィトンはそこに常に“今”を差し込んでくる。
Pharrell WilliamsによるSpeedy P9では、Monogramをsilk-screened calfskinで再構築し、ジュエリーのようなハードウェアを採用。 さらにNigoとのコラボレーションでは、Damier Phriendship Speedy 25に両者のポートレートを落とし込んだ。
どれだけ新しく見えても、成立している理由は変わらない。 ベースにあるのは、19世紀から続くルイ・ヴィトンの“旅の輪郭”だからだ。
結局、ルイ・ヴィトンはずっと同じことを続けている。 旅の時代に生まれたものを、新しい時代へ運び続けているだけなのかもしれない。
だから「Since 1854」という言葉は、単なる創業年では終わらない。
ルイ・ヴィトンが本当に価値を持っているのは、noveltyではなくcontinuity。 そこに尽きる。
多くのブランドが10年ごとに自分たちを作り変えていく中で、 ルイ・ヴィトンだけは、100年以上ほとんど同じ言語を話し続けている。